
仔犬のパレード
第2章 小屋
翔「はぁ…」
甘い
甘いんだ
智の唇は 甘い
翔「…なんでだろ…」
砂糖?
蜂蜜?
違ぇよ
そういうんじゃない
ずっと 味わっていたくなる…そんなやつ
智『翔。唇かっさかさだな(笑)』
あの後
はっ。と笑って余計な一言を吐いて、あの子と奥の部屋へと消えていった智
翔「……しょうがねーだろぉが、カサカサだって…」
手入れなんてしてねーんだから
俺は指で自分の唇に触れ、それを軽く摘まんでみる
……まじでカサカサっつーか、ガサガサ…
リップ欲し…
…………って、まて、なに手入れしたいなとか考えてんだ俺
それに智の唇が甘いってさ
そもそもな話
俺は智としかキスをしたことがないからさ
キス全般が甘いんじゃねーの?
誰の唇もあんな甘い匂いがするんじゃねーの?
翔「…きっとそうだ」
そう思ったら、なんだかそんな気がしてきた
今度…
雅紀とキスしてみようかな
そしたら確認ができる
…
……
………いや
でもなんだ
すこぶる気が乗らない
あのニコニコした唇にしたいとも、ましてやされたいと思わない
やっぱりあれか…
それもこれも、智としかキスしたことがないからか?
あぁ…迷路、袋小路、迷宮入り
翔「…はぁぁ…」
脳ミソを蝕む痛みは消えたけど
ちっともクリアにならないこの気持ち
出ていけとばかりに俺は重苦しい溜め息を、倉庫に落とした
ガッシャーー…ン!
!
遠くから聞こえた何かの落下音
…
そういや
雅紀ってお湯沸かしたことあったっけか…
……火傷したかもな
火傷の時は…どうすんだっけな……
確か……
スカスカの脳ミソを無理矢理酷使させ、以前読んだ本に書いてあった対処法の記憶をなんとか手繰り寄せる
手には、あの子用の点滴の薬剤に点滴用の管、針、消毒……とあとは…あぁそうだ針を固定するやつと、腕縛るやつ……
これで大丈夫か…?
がさっ。とそれらをまとめて箱に入れ
独特の匂いが立ち込める倉庫の灯りを消し
俺は廊下へと出た
