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仔犬のパレード

第4章 歯




夢中だった


必死だった


止めなきゃと思った



最早、あの距離をどうやって縮めたのかわからない

でも雅紀の拳が振り落とされる前に、それをこの手で掴んだのは確かだ




翔「ぅっ…」


けれど、今俺の手の中には何もなくて


翔「ま…さき…」


一瞬にして方向感覚を失って
気が付いた時には


雅紀「…」


翔「ぐっ…」


俺の背中には、氷のように冷たい床

そして
目の前には俺をニコニコと見下ろす雅紀が居た



翔「、……ぁ…」


…息が…苦し……



ギリギリと俺の首を締め付ける 雅紀の二つの手


雅紀「……」


翔「ぅ…ぐ……!」


苦しい……苦しい…


苦しいよ…雅紀……


雅紀「………」


霞みそうになる視界の先
そこに居る雅紀


その顔は、びっしりと血で赤く染まる



雅紀…苦しいよ…



ポタ…と、赤い血が俺の頬に垂れる

それはまるで
雅紀が泣いている様に


ポタ…ポタ…と俺へと滴り落ちてくる



雅紀


雅紀


この声が、雅紀に届いていたかはわからない

けれど
俺の首を締める二つの手は小刻みに震え
その力はそれ以上強くなることはなかった



雅紀「………」


雅紀 もういいんだ


もう…いいんだよ


お前は
人殺しなんてしなくていい

もう、そんなんで
お前が傷付く必要はないんだ



雅紀「、……ぁ…」


ニコニコと笑う


その口角が、震え
ゆっくりゆっくりと下がっていく


それはやがて真一文字に引かれ、痙攣を止めようとするかのように、ぎゅぅと閉じられる


ポタ ポタ ポタ…


血を流し落とすかの様に溢れ出した涙
そこにある瞳は

もう笑ってなんてなかった



雅紀「…ぉ れ …」


なんだ

翔「…そんな表情(顔)も できんじゃん」


雅紀「、…っあぁぁあぁ…!」





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