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take a breather

第25章 P・A・R・A・D・O・X

今、廊下に出れば大野先生と出くわしてしまう

足が止まった俺を級友が振り返る

「翔?どうした?」

「あ…ごめん。机の中に忘れ物した
先に行ってて」

「おう、わかった」

忘れ物なんてしてないけど、自分の机に向かってUターンした

「さようなら〜」

「さようなら」

廊下に出た友人と大野先生が挨拶を交わすと静まり返った廊下…

もうそろそろ大丈夫だろうと振り返り、ドキリとした

教室の入口に立ち、微笑む大野先生

「こんにちは」

「…こんにちは」

大野先生がこちらに向かって歩いて来くると、俺の真正面に立ち止まる

「顔色は悪くなさそうだね」

「え?わざわざ様子を見に来たんですか?」

「ん、そうだよ?
学祭の準備で居残りするってメッセージくれただろ?」

「送りましたけど…
『体調はもう大丈夫です』とも送りましたよね?」

「うん。でも、二宮先生が『櫻井が疲れた顔してる』って言ってたから気になって」

「あっ…」

大野先生に報告しとくって言ってたやつか
余計な事まで報告しやがって…
また大野先生に心配掛けたじゃないか

「すみません…ご心配お掛けして
でも大丈夫ですから
久しぶりの学校で疲れたんだと思います」

「二宮先生から話し聞いたのは朝だよ?
学校生活しててじゃなくて、朝から疲れてたってことでしょ?」

誤魔化そうとしたけど、誤魔化されてくれないか

「少し夏バテしたのかも…
夏が終わって涼しくなれば自然と元に戻りますよ」

「だったらいいんだけど…」

大野先生に心配そうに見つめられると、切なくなる

そんな目で俺の事見るなよ…
他に大切な人がいるくせに

「もういいですか?
早く休みたいんで、もう帰りますね」

「あっ、ごめん。気を付けて帰って」

「さようなら」

大野先生の脇をすり抜けるように歩いて行く

「さようなら」

先生の声を背中に聞いて教室を出た

俺ってやな奴…これじゃ先生に八つ当たりだ

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