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take a breather

第8章 rolling days

「翔さん、昨日起きてたの?」

上目使いで俺を見ながらコクッと頷いた

「眠りに落ちそうだった時に智くんの声が耳元で聞こえて…」

マジか…もう眠ったのかと思ってたのに

「寝る寸前だったから都合のいい夢かとも思ったんだけど
朝起きた時智くんが抱きしめてくれてたから
夢じゃなかったんだって…凄く嬉しかったのに…」

俯いてしまった翔さん

嬉しかったって…

「それで朝 機嫌が良かったの?」

「…うん」

「それってさ…俺の事、好きって事?」

遠慮がちに聞いてみると翔さんは俯いたまま頷いた

本当に?でも家族としての『好き』かもしれないよな
大切な人だとは言ってくれたし

「迷惑…だよね…
だから家から出て行こうとしてるんでしょ?
元々はお母さんの恋人だし…
やっぱり智くんにとっては保護者でしかないんだよね
こんなおじさん相手にしなくても
智くんなら可愛い子見つけられるし…」

翔さんの肩が小刻みに震え、ポタリと机の上に雫が落ちた

俺が泣かせてしまった…
3年前 泣かせたくないと思ったこの人を
3年間 一度も涙をみせなかったこの人を…

俺が自分に自信を持てなかったから

自分が翔さんを幸せにするんじゃなくて
自分よりも相応しい人に翔さんを任せようとした
でも翔さんが望んだのは『他の誰か』じゃなくて『俺』

椅子から立ち上がり翔さんの横に立つ
翔さんの両肩を掴み
クルリとこちらに体を向かせると
肩に腕を回しそっと包み込んだ

「ごめん…」

「謝らないでよ…智くんが悪いんじゃないんだから」

俯いたまま話す翔さん

「ううん…俺が悪い…俺が勘違いしたから…
翔さんには他に好き人がいるって…」

「僕、他に好きな人なんかいないよ?」

「うん。だから勘違い…」

翔さんを包む腕に力を籠める

「智くん?」

翔さんが漸く顔を上げてくれた

「翔さん…好きだよ…」

そう告げても不安そうな瞳で俺を見る

「…ホントに?」

「うん、ずっと前から翔さんが好き
だからふたりで一緒に幸せになろう?」

翔さんは俺のシャツを握りしめると俺の胸に顔を埋めた
じわりと温かく湿ってくるシャツ
腕の中の翔さんが『うんうん』と言いながら
首を何回も小さく縦に振った。

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