まだ見ぬ世界へ
第9章 幸福論【初対面①】
『もしもし』
「あっ、相葉です。お休みの日に電話して申し訳ありません」
『気にする必要はないよ。電話はあるだろうなって思っていたから。だだ思っていた時間よりは早いんだが……何かあったのか?』
「はい、実は……和也くん、寝ちゃってまして」
チラッと目線を横にやると、俺の肩に頭を預けて寝ている和也くん。
『寝てる?』
『ちょっ、寝てるってなんだよ!』
『おい、電話中は静かにしないか!』
『静かになんかしてられるか!』
受話口から誰かの怒鳴り声らしきものが聞こえてくる。
見せてもらった写真に写っていたお兄さんかな?
「あ…あの、社長……」
『あぁ、もう大丈夫だ』
社長が言う通り、聞こえていた声は聞こえなくなった。
『で、何で和也は寝てるんだ?』
「あ、飲み物にノンアルコールビールがあったんですが……和也くん間違ってビールを取って飲んでたみたいで。すみません、気がづかなくって」
『いや、気にするな。きっと気がづかないくらい、君との過ごす時間が楽しかったんだろう』
「そうであれば……嬉しいです」
『で、相葉くんはどうだったんだ?』
「俺は……」
再び目線を横にやり、少し頬を紅く染めて寝ている和也くんを見つめた。
和也くんの事が『好き』かどうか……
それは今、わからない。
でも、確実に和也くんに惹かれている。
「また……また、和也くんに会いたいって思ってます」
『そうか』
そう答える声は社長ではなく父親の優しい口調だった。
「和也くんが起きたら、また連絡させていただきます」
『あぁ、わかった。あと、相葉くん……』
「はい、なんでしょうか?」
『お誕生日、おめでとう』
「……えっ?どうして俺の誕生日を」
『ははっ、なんでだろうな?じゃあ、和也を頼むな』
「はい、では失礼します」
電話を切ると、俺は和也くんの心地いい寝息を聞きながらゆっくりと瞼を閉じた。
社長なら……
和也くんのお父さんならきっと、どんな選択をしたって幸せな未来を切り開いてくれる。
その選択に俺が入ったとしても……
【To be continued】