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まだ見ぬ世界へ

第9章 幸福論【初対面①】

俺はあの日、補習を受けていた。

でもやる気がなくって窓の外を見ていると、その視線の中にあの人が1人歩いているのが見えた。


その姿はなぜか寂しく見えて……


俺は補習を抜け出し、その姿を追いかけて走った。


『あ…っ、あの!』

俺の言葉にあの人は立ち止まった。

『お…俺、2年の相葉雅紀っていいます!先輩は俺の事知らないとは思うんですけど……俺、先輩の事が……先輩の事が好きです!付き合ってください!』


今、考えたら唐突過ぎる告白だよな。


『相葉くんは、『β性』だよね?』

『は、はい!』

俺は話し始めた先輩の言葉に完全に浮かれていた。

告白は成功するとしか思っていなくて、その後に続く言葉を待っていた。


今考えれば、先輩は至って冷静だった。

話したこともない見ず知らず、それも男に告白されたんだ。


多少の動揺があってもおかしくないはず。


でも『Ω性の男』として生まれた時点で、結婚……つまりは『番』の相手が男になる事がわかっているから、すんなりと告白を受け入れたかもしれない。

もしくは名前を聞いた時点で知らない人だった……つまりはβ性だとわかって、何も感じなかった。


『僕の価値を見出してくれるのはα性だけ。β性にどんなに想われても僕にとって何の意味もない』

ゆっくりと振り返ると、俺の目を見て先輩は言った。


結局、思い返したって答えは同じ。

寧ろ、状況全てがその言葉に間違いがない事を証明してる。


そして想定なかった返事に呆然としていた俺を先輩は、暫く見つめていた。


その姿は脳裏にずっと残ってる。

忘れようにも忘れられなかった。


俺はその姿をまた思い浮かべてジッと見つめた。


「嘘だ…ろ?」

「相葉…さん?」


先輩はサッと前を向いて歩き出した。




涙を零した……瞬間に。




「届いて…た、俺の……気持ち。先輩…に」

和也くんが優しく微笑む。

そして俺の顔に手を伸ばすと、いつの間にか流れ落ちていた涙を指で拭ってくれた。

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