まだ見ぬ世界へ
第10章 想いを紡ぐ
「櫻井先生」
授業を終え廊下を歩いていたら、呼び止められた。
「ん?どうした?」
「放課後、時間ありますか?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、放課後……約束です」
俺の前に小指を立てた。
「約束…ね」
そっとその小指に俺の小指を絡ませた。
終業のチャイムが鳴り、俺は準備室に向かう。
逸る足取り、ニヤつきを抑えられず、口元を手で隠しながら歩く。
なかなか可愛いヤツだったな。
いつの間にか浸透した放課後の俺との秘め事。
そして、あの合図。
合図がなかったら契約不成立。
コンコン…
準備室に到着して早々、ノック音が聞こえた。
「どーぞ」
「失礼…します」
小さく、か細い声が聞こえた。
「入ったら鍵閉めてね?」
「…はい」
カチャッ…
彼はドアの前から動かない。
「ボーっとしないでおいでよ?」
「…はい」
トボトボと俺の前に来たが、ずっと下を向いたまま。
「顔、上げて?」
手で頬を包み込むと、ピクッと震えた。
今までの生徒とは様子が違う。
恥ずかしがるヤツは何人もいたが、活気というか……ガッツ気感が全くない。
「どうした?」
「あの…っ、俺…櫻井先生にお願いがあって」
「……お願い?」
そりゃ、お前とエッチする事だろ?
「……大野先生来ますよね?」
「ん?あぁ、見張り?よく知ってるね。来る予定だよ」
「それ、中止に出来ますか?」
「へっ?」
彼の言動は理解できなかったが、とりあえず大野先生にLINEを送った。
それから二宮くんは涙ながらに語ってきたこと。
大野先生との幼少期の出会いなど、全てを俺に打ち明けた。
そして、大野先生への想いも……
「で、どうして俺に?」
「大野先生と仲がいいので……お願いします!どうしても確かめたんです!」
「でもさ……俺にメリットなくない?」
二宮くんの大野先生への気持ちは痛いくらいに伝わってきた。
でもだからといって大野先生をこっちの世界に飛び込ませることは、決してお勧めはできない。
仲がいいからこそ……
だから俺はさらに二宮くんの本気度……覚悟を確かめたかった。
「もし、協力してくれたら……あとは俺を自由にしてもらって構いません」