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まだ見ぬ世界へ

第10章 想いを紡ぐ

沈黙が続く準備室。

たまに響く、蛙の鳴き声。


「あの…っ」

その沈黙を破ったのは二宮だった。

「ごめんなさい」

ビックリするくらいの勢いで頭を下げた。

「櫻井先生に、俺が頼んだんです。俺を狙っているフリをして欲しいって……」

頭を下げたまま、話を続ける。

「じゃないと……俺の存在に気付いてくれないから」

語尾がどんどん小さくなっていく。

そして俺の頭の中では、はてなマークがどんどん増えていく。

「俺の事……覚えてますか?」

顔を上げ、俺の目を見つめる。

その目には今にも溢れそうなくらい涙が溜まっている。



『覚えてない』



そんな言葉、今の二宮の姿を見て言える訳なかった。


でも、これは事実。

二宮くんを認識し始めのはついこの間の事。


ん?

待てよ……


覚えて……ますか?


知っているとは違う。

覚えてるって聞くということは、どこかで俺は二宮くんに会ってるのか?


「あんなガキとの約束なんて、覚えているわけないですよね」

笑っているけど、明らかに無理している顔。

「でも、運命だと思ったんです。櫻井先生が作戦を実行してくれた日、桜の木の下で大野先生に会えたから……」

その言葉を言い終わると、目から涙が堰を切ったように流れ出す。


『約束』

『桜の木の下』

『知らない人には教えない』


そして二宮が流した涙


俺の頭の中で言葉と記憶を紡いていく。



合致する出来事は……ただひとつ。



「スミマセン、忘れてください」

目をゴシゴシ拭いて、準備室を出ようとした。

「待って!」

俺は慌てて二宮の腕を掴んだ。



「覚えている」



「えっ?」

ビックリした顔で俺を見つめている。

「ハルと一緒に桜を見る……だろ?」


さっきとは違う。


ポロポロと涙を流しているのに、心からの笑顔を俺に向けてくれた。

「さとし…っ」

「うわっ!」

勢いよく、俺に抱きついてきた。

俺の胸の中で身体を震わせながら泣いている。

「呼び捨てすんなよ……」

あの日とは違う、優しい口調で二宮を抱きしめながら呟いた。

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