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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

【α性の兄】


瞼を閉じると今も思い出される記憶。


弟が弟ではなくなった瞬間。

そして俺が兄でなくなった瞬間。


弟が『Ω性』である事はわかってた。



でも弟は弟。



『Ω性』とあえて意識することはなかったし、弟……つまりは『男』相手に間違いなど起こすはずはない。



あの日まではそう思っていた。



α性としては珍しく、俺は勉強が苦手だった。

いや、他のα性よりも秀でてはなかったというのが正しいかもしれない。

でもそれに対して他のα性を僻む事はなかった。

自分は勉強より絵を描くことを含め、何かを生み出す方が好きだったし、実際に他の人よりもその才能はずば抜けていた。

でもそれは努力ではなくα性だからかもしれない。

だからコンクールで賞を取っても『α性だから』だって陰口を叩かれる事もあった。

そしてその事に悩んだこともあった。


でもある時、父が俺に言ってくれた。


『α性』は少なからず人から妬まれる。

でもそこで諦めて『捻くれ者』になるか……

努力と認められなくても努力を続け『芸術家』になるか……

それは自分次第だって。


俺は長男だけど会社を継ぐ気はなかった。

その事に父も薄々、気がついていたけど俺には何も言ってこなかった。

その選択をした以上、父の力は借りられない。


だからこそ、自分で生きて行く道を探さなければいけない。


好きな事をして生きていたいと望むのならば、他人の言葉なんて気にしてはいられない。

特殊な業種なら尚更。


父がそう気づかせてくれてから、コンクールやコンペと呼ばれるものは全て応募し、賞という賞を俺は総ナメにした。

『賞』というのは俺の今後の作品に箔をつけた。

このやり方が正しいかはわからない。


でも描いた絵をずっと褒めてくれる人がいた。



父、母、そして……何よりも弟。



そこに『α性』だからという色眼鏡は無かった。

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