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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

父の勧めもあって美大に入学したが、基礎知識を入れてしまうと自分の作品の幅が狭まってしまうと感じたので早々に辞めた。

それにある程度の知名度のお陰か、制作の依頼も多くなってきたので、そっちを優先したかった。


早く、一人前になりたい。

親に頼らず、自立したいって……


それと同時に外に出るのを避けたかった。


もちろん顔出し等はしていなかったから、俺の正体がバレることは無い。

でも名前はバレている。

そして俺が『α性』である事も……


作品の批評だけなら、構わない。

落ち込みはするけど、今後に活かせる可能性はある。


『α性だから』


その言葉が入るのは、俺の作品を受け入れていない証拠。


そんな人を目にするのも嫌だったし、そんな声を耳にしたくなかった。


幸い、俺の作品は何かを見ながら生み出すモノとは違い、俺は想像から生み出すモノがほとんどだった。



けど……どうしても描きたい絵があった。



それは母、父、そして弟の肖像画。



どんな時も俺の味方でいてくれて、いつも俺を応援してくれた。

そして俺に……笑顔を向けてくれた。


その素敵な笑顔を描きたいって思ってた。


父の誕生日、母の誕生日にそれぞれプレゼントした。

父は『まぁまぁだな』なんて言いつつも、描いた絵をジッと眺めていた。

母は『ありがとう』と涙を流しながら描いた絵を大事に抱きしめていた。

そして弟は『いいな』って口を尖らせながらその光景を羨ましそうに見てた。


目を閉じればすぐに浮かぶ、たくさんの弟の笑顔。

その中から『これだ』と決めたら、より一層やる気が出た。


そんなある日、弟が風邪をひいたとお手伝いさんから聞いた。

珍しく朝食にも昼食にも顔を出さず、お手伝いさんが部屋に持っていた食事にも手をつけていなかった。

心配になった俺は、弟の部屋に様子を見に行った。


このごく自然ないつも行動が、あんな事態を招くとはこれっぽっちも気づかずに……

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