俊光と菜子のホントの関係
第7章 『少しだけでも……』
「あっ……ありがとうございます!」
智樹に褒められた明里ちゃんは、パッと表情を明るくした。
「明里ちゃん、はじめまして。今日はよろしくなっ」
「はいっ、こちらこそっ!」
明里ちゃん……早くも智樹の虜になったみたいだ。目がらんらんとしている。
智樹。あんまり明里ちゃんを誘惑してくれるなよ。
「しかしホント、こーんなステキな浴衣姿が見られるなんてな。オレ、マジで来て良かったって思うよー」
「えーっ。やだ、そんなー」
智樹はさりげなく、照れまくる明里ちゃんをエスコートし、先に歩きだす。
えっ? お、おい智樹っ?
状況を呑み込みきれてない俺を察したのか、智樹は顔だけ振り返り、アゴで菜子を指して、
〈ほら、ボケッとすんなっ〉
と、口パクで言ってきた。
あ……そういうことか。
ここでやっと、智樹の機転だということを理解出来た。
だよな。しっかりしないと。
俺は、菜子にわからないように一呼吸すると、少し気持ちを楽にすることが出来た。
智樹、ありがとな。フォローしてくれて助かった。
あと、ごめんな。心の片隅で、明里ちゃんを誘惑しようとする『たらし野郎』とか思ったりして。
「菜子。俺達も行くか」
「……うんっ」
智樹と明里ちゃんから少し距離が空いたけど、それでもあえて急がずに、二人で並んでゆっくりと歩きだした。