俊光と菜子のホントの関係
第7章 『少しだけでも……』
暗くて人気のないところから、ようやく明るい出店の通りに出れた。人混みの中、俊光君がまだ私を引っ張りながら、
「お前……何もされなかったか?」と訊いてきた。
「あ……う、うん。手首を掴まれた以外は何も……。
私が、すねを蹴飛ばしたりしたぐらいかな?」
「…………」
「わっ、何?」
急に止まったかと思ったら、私の方に振り返り――
「おーまーえーなぁーっ……」
「いっ、いたたっ! な、なにふんのよぉー!」
俊光君がムスッと怒った顔して、両ほっぺを両手でグニグニと回してつねってくるーっ。
「あんな暗くて人気のないところに、一人で行くんじゃねぇっ!
もし俺が来るのが遅かったら、もっと卑猥なことをされてたかもしんねぇんだぞっ!?」
ひゃーっ! 今度は横に伸ばされてるぅー!
「ら、らって、おひひひゅーすはっ……」
(だ、だって、帯にジュースがっ……)
ほっぺを引っ張られて、うまくしゃべれなーいっ。
「そもそもこんな大混雑の中、女のコがたった一人で行動すること自体、あり得ねぇだろっ!」
「しょれは、しゅぐもろるひゅもりでひたからぁっ!」
(それは、すぐ戻るつもりでいたからぁっ!)
うまくしゃべれてなくても、俊光君の耳は聞き取れたみたいで「アホかっ!」と言い放ってきた。
「へいうは、あほっへはによー!」
(ていうか、アホって何よー!)
「アホはアホだろっ! すぐ戻るつもりでもっ――
『可愛い浴衣姿のお前が』なぁ、
少しの間だけでも一人でウロウロしてたら、野郎の恰好の餌食(かっこうのえじき)なんだぞっ! 少しは自覚しろっ!」
「…………ふぇ?」
『可愛い浴衣姿のお前が』?
「……あ、いやっ……だからっ……」
俊光君はどもりながら、ようやくほっぺから手を離してくれた。
うそ……俊光君。
私の浴衣姿を、そんな風に思っててくれたの?