俊光と菜子のホントの関係
第7章 『少しだけでも……』
「……だから、もう一人になるなよ。わかったな?」
俊光君は顔を反らして、再び私と手を繋いで歩きだした。
「は……はぁーい。ごめんなさーい……」
ど、どうしよ。怒られてるのに、舞い上がっちゃってて顔が熱い。私、真っ赤かも。
な、何か話さないと、顔色も気持ちも落ち着かないっ。
そうだ。さっきの弁解をしよう。
「ね、ねぇ、俊光君……?」
ドキドキしつつ、俊光君の背中に向かって話かけた。
「……何だよ」
「さっきの……彼氏って言うのは、あのチャラ男を諦めさせるために言っただけなのっ。
だから、ごめんなさい。俊光君がその……か、彼氏になっちゃって。
私達、ホントは兄妹なのに……」
「…………」
何も言わない。
少し先を歩いてて、顔も見れない。
まだ怒ってるの? でも、手は繋いでてくれている。
わかんないけど、ただわかることは……
俊光君の温もりは、やっぱりしっくりきて安心出来て心地いい。
怒ってるにしても、根本的な優しさは伝わってくる。
「……いいって」
「え?」
「必要最低限の嘘で逃れようとしたんだろ? わかってる。だから、俺も合わせた」
「あ……うん」
「だから謝んなくていいって。あのチャラ男、まんまと信じたし。俺も、兄妹というよりも効果的だと思って言ったんだ。それでかはわからないけど、結果的に大事(おおごと)にならなくて良かったと思ってるから」
「そう、だよね。あ、ありがと、助けてくれて……」
「……うん」
怒ってはなさそうだけど、結局俊光君は、今の会話の最初から最後まで、前を向いたままだった。
にしても、彼氏って……。
(……そうだよ。
コイツの彼氏だけど……だから、何?)
合わせて言ってくれただけでも、私……すごく嬉しかった。
少しだけでも、俊光君がホントの彼氏になったみたいで、叶わない恋が少しだけ叶ったみたいで、
すごく、すごく嬉しかった。
けど、そろそろ手を離した方がいいよね?
俊光君、きっと私を落ち着かせるために繋いでるだけだろうし。ホントはまだ離したくないけど、俊光君のお荷物になってるのも気が引けるもん。