俊光と菜子のホントの関係
第7章 『少しだけでも……』
俺は少し前を歩いてるし、振り向いても菜子はうつむきっぱなしだから、まともに顔を見れてないけど、
コイツ……俺に『彼女と思うから』と言われて、今、どんな顔してるんだろう。
『俊光君、キモーイ!』って、しかめっ面をしてたりして。
いや、そしたら菜子のことだから、口に出してハッキリ言いそうな気もするから……ひょっとして、少しは意識してくれていたりするのか?
いや……まさかな。
菜子からしたら俺は実の兄なんだから、ただの兄の優しさで終わっている可能性の方が高い。
わかっているけれど……菜子の今の表情を見てみたい。
俺は、自分の高鳴っていく心臓の音を聴きながら、
歩くのをやめないまま、
もう一度、菜子の方を振り返ろうとした――
ドォンッ……!!
「なっ……!?」
突然の、内蔵に響くぐらいの重く大きな音に、自然と足を止められてしまった。
その音が辺り一帯に渡りきったと思ったら、
今度は夜空が突然、全てを広く照らすように明るくなり、パラパラパラ……と何かを散らす音まで聞こえてきた。
周りにいた人達が、見惚れたように見上げていて声も上げる。
俺もつられて見上げると――
大輪の火花が、夜空いっぱいに広がって浮き上がっていた。
あ……花火が始まっちまった……。
それからも大きな音と共に、真っ暗な夜空に色とりどりの花模様が、次から次へと、美しくも壮大に描かれていく。
「と……俊光君っ!」
「っ、あ……」
呼ばれて、夜空から菜子に顔を向けると、子供みたいに目をキラキラと輝かせていた。
「花火、キレーだねー!」
「あ……あぁ。そうだな」
やっと見れたその表情は――いつもの無邪気な菜子だった。
結局、俺に『彼女だと思うから』と言われた直後の菜子の表情は見れなかったな。
……ま、いいか。
菜子、花火でチャラ男の恐怖が和らいだみたいだし、それはそれで何よりだ。
それに、この無邪気な表情が一番菜子らしくて――
好きだしな。