俊光と菜子のホントの関係
第7章 『少しだけでも……』
「だってぇー、そこまで私のことを考えて助けてくれたんだってわかったら、誰だって泣くよぉー。
それに、私が無事で良かっただなんて言われたら、余計だよぉー」
「だからって、こんな人混みの中でそんなに泣くなって」
あーほら、周りにジロジロ見られてるし。
まるで俺が泣かしたみたいだ……
あ。俺が泣かしたのか。
俺はポケットからハンカチを取り出して、泣かした責任感でじゃないけど、涙で濡れた菜子の顔を優しく拭いた。
「もう泣くな。ほら、花火がキレイだぞ。いい加減笑え。な?」
「ぐすっ……うん」
ん? なんか、デジャブだな。このシチュエーション。何だっけ?
……あ。そうだ、思い出した。高校の入学式の時だ。
迷子になっていた小さな女の子を、宥めた時と一緒――
「…………ぶはっ!」
「っ、な、何よぉ! 大袈裟に吹き出してぇー!」
「あははっ、いや、何でもねぇ……はははっ!」
コイツ女子高生のクセに、小さい女の子(推定4~5歳)と同レベルかよっ……って思ったら、ツボった。
「それ、何でもなくなさそうっ! わかんないけど、嫌な感じだしーっ!」
言わなくても怒るんだから、言ったら更に怒り倍増だな。絶対黙っておこう。
じゃないと――
『もう俊光君のこと、彼氏だなんて思うのやめるーっ!』
って拗ねて、手を離されちゃうかもしれないからな。
それだけは避けたいから、
「いいから花火見ようぜ」と言って、その場を濁した。
―終わり―