俊光と菜子のホントの関係
第8章 『かけがえのない兄妹』
「……池崎君?」
「はっ、はいっ」
肩をポンっと叩かれ慌てて振り返ったら、よく知るメガネの男性がいつの間にかそばに立っていた。
同じくバイトでもあり同じ大学でもある、佐原(さはら)先輩だ。バイト研修中の俺の教育係もしてくれている。
二年上で、注意する時も常に口調が穏やかという、温厚な性格の持ち主。見た目も今どき感がなく、落ち着いた風貌。そんな先輩だから、とても頼りやすくて安心出来る。
「どうしたの? 手が止まってるしボーッとしてるしで……夏バテ?」
「い、いえっ。ちょっと考え事をしていました。すみません……」
しかも、作業のことじゃなくて、妹のことを考えていました。すみません……。と、もう一度心の中で謝った。
「そうか。大丈夫ならいいけど。わからないことがあったら遠慮なく聞きなよ?」
「はい……ありがとうございます」
「でも池崎君は呑み込みが早いから、こっちも手がかからなくて助かるよー。じゃ、僕はあっちにいるから」
佐原先輩は自分の持ち場へと戻って行った。
いけねぇ……ついボーッとしちまった。手がかからないって言ってくれてるのに、俺、先輩をわざわざ来させちゃってるし。
こんな時にまで、菜子のことを考えて浸ってしまうって……もはや病気に近い。
気を持ち直して、再び本を戻し始めた。