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俊光と菜子のホントの関係

第9章 『勝手にジェラシってる』




 ――わたしは駅から乗ったバスの中で、ほぅ……とため息を漏した。

 まさか池崎先輩に会えるなんて……。

 それだけじゃなく、さっき電車でよろけたのを支えてくれて……。わぁ、思い返しただけでも顔が熱くなっちゃう。

 わたしは――池崎先輩が好きだった。

 初めて先輩を見たのは、高校入学したばかりの頃。

 当時、わたし達一年生の間で『久我先輩という人がスゴいイケメン』と話題になってた。それに食いついた友達に連れられて久我先輩を見に行ったら――わたしは、その隣にいた池崎先輩の方に目がいった。

 物静かそうだったけど、ふと見せた屈託のない笑顔がステキで。

 気づいたら、一目惚れしてた。

 でも、絶対に手の届かない存在だし、ただ遠くから見てるだけで終わると思ってた。なのに、

 調理実習でクッキーを作った時、友達が背中を押してくれてダメ元で渡しに行ったんだよね。

 そしたら――


(すげーうまいじゃん! やっぱりこういう手作りっていいよな。心がこもってるし、女のコって感じがするし。本当、ありがとな! これ大事に食うよ)


 あの笑顔でそう言ってくれたのは、今でも鮮明に覚えてる。
(あの後照れがすごく生じて、思わず逃げちゃったけど)

 それからも先輩は話かけてくれた。それだけでもう胸がいっぱいいっぱいだった。

 それでも、先輩が卒業する時には告白しようとも思ってた。うまくいくかどうかは別として、気持ちだけでも打ち明けたくて……。

 でも――それすらも出来なかった。

『ある噂』を耳にしたから。


(池崎先輩って、バレー部の吉野先輩を振ったらしいよ)


 あの吉野先輩を振ったなんて聞いてしまったら、わたしなんかが告白をしたって、ただの迷惑にしかならないと思えちゃって……。

 結局、池崎先輩の前で別れを惜しみながら泣くことしか出来なかったんだよね。

 はぁー。先輩に会ったら、いろいろと思い出しちゃった。

 片想いだったけど、想いを告げられなかったけど……それでも、わたしにとっては大事な恋の思い出。

 もし、短大に合格して、また先輩に会うことが出来たら、わたしの好きだった笑顔で『おめでとう』って言ってもらえるかな? 言ってもらえたらいいな……。

 そんな淡い期待を抱きつつ、わたしはバスの心地良い揺れに身を任せた。



 ―終わり―


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