俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
*
――??年前。
我が家に到着っと。
「ただいまー……」
「きゃああああっ!!」
「なっ!?」
その声の主の異常な叫び方に、一瞬身を固くした。
今のはっ……!
慌てて靴を放って家に上がった。
「どうした!?」
「たっ……助けてぇー!」
「わっ」
奥から飛んで来たその姿にたじろいだ。
待ってくれっ……裸にバスタオルだけじゃないかっ。
そりゃあ全裸は今までに何度も見てきたが、バスタオル姿には免疫ないから、つい変な目で見てしまう。
胸も目立つし、余計直視しづらい。
「な、何があったんだ!?」
「あ、アレっ……」
「アレ?」
「その……ゴ……ゴ……」
「……あ。もしかして、あの虫?」
すると、コクンと頷いた。
可哀想に。かなり震えてる。アレが大嫌いだから無理もない。
とはいえ、実は俺も得意じゃない。
「けど、倒すか」
「ご、ごめんなさい……」
「なに。俺もいい加減、倒すのに慣れないと――」
「わーい、おかえりなさーい」
奥からまた一人、テトテトと可愛く走って来た。
――我が家の大事な幼子だ。
「あのね、ぼくバシッしたよ」
「バシッした? 何をだい?」
「これー」
「んー?」
その小さな手にはティッシュが握られている。
それを受け取って見てみたら――
「っ、うわぁっ!」
あまりにエグくて手から離した。
ティッシュの中身は――俺が嫌々倒そうとしたアレだった。
「ねー、ぼくエラい?」
「こっ、怖くないのか?」
「こわくないよ。ほいくえんでもバシッして センセイに ほめられたんだー」
「そっか……。え、エラいぞー……」
「えへへ。ぼく、ポイッしてくる!」
誇らしくそれを掴むと、リビングへと入っていった。
「す、スゴいわねー……『俊光君』って」
「あぁ……見事だ」
『俊光の母親』はアレが苦手だから……
間違いなく『父親であるアイツ』の遺伝だな。
「っ、くしゅん!」
「ほら。早く着替えないと」
「そうね。風邪引いたら大変ね」
「そうだぞ。
もう……君一人だけの体じゃないんだから」
「……はい。勝治さん」
――愛の結晶が宿るふっくらしたお腹を、
二人で愛おしげに擦った。