俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
――現在。
「……勝治さん? 笑うところじゃないんだけど」
ソファーで俺と向かい合って座る美都子は、怪訝な顔して覗いてきた。
「あ……悪い。今の話を聞いてたら昔のことを思い出してな」
『今の話』とは、美都子から聞かされた、俺が帰ってくる前に起きたという出来事のこと。菜子がアレに酷く怯えて、バスタオル姿のまま俊光に助けを求めていたらしく。
それが、昔の思い出と似てたから、つい浸ってしまっていた。
菜子には悪いが、そういうところも『受け継いで似たんだなぁ』と、俺としてはそれが喜ばしく思えてしまう。
「もう、勝治さんたら本当に呑気なんだからぁ。俊光がおかしいってのにー。
あのコ、ボーッとしながらアレにブツブツと話し掛けてたのよ? 内容はよく聞き取れなかったけど……。
天然にしても異常だと思わない?」
美都子が言うのは、そのあとの俊光の様子。
いつもの俊光にない現象だから、余計に心配なんだろう。
「うーん……。何か、誰にも言えない悩みでもあるのだろうか」
「だとしたら……誰にも言えない悩みを、アレに打ち明けていたってこと?」
「かもしれないぞ。それほど精神的に追い詰められてたりしてな」
「やだっ! ちょっとやめてよっ! 縁起でもないっ!」
ライトなジョークのつもりだったが、美都子にはヘビーに感じたらしく本気で制してきた。よっぽど俊光の様子がおかしかったんだな。
「で、『どうしたのよ?』って、今本人に直撃してもいいと思う?」
「いや、どうかな。確かに気にはなるが、今すぐに無理に聞き出そうとするよりも、機会を伺ってそれとなく聞いてみる方がいいんじゃないか? ああいった年頃だし、親があんまり踏み込むのも良くないと思う」
「……そうよね。勝治さんの言うとおり、今はそっとしておくことにするわ。じゃあ私、お風呂に入ってくるわね」
話したことでホッとしたのか、美都子は足取りを軽くしてリビングから出ていった。俺はそれを見届けると、ソファーに深く寄りかかり身を沈めた。
そうだよな。俊光も、もう十九だ。悩みの一つや二つぐらいあるよな。
無邪気にアレをバシバシ倒していたあの頃から、もう十五年過ぎか。
それと――『もう一人の家族が離れていってしまったあの日』からも、同じぐらいの年月が経ったのか……。