俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
俺は、隣に置いたビジネスバッグから手帳を取り出すと、そこから一枚の写真を抜いた。
これには――仲睦まじい『五人』の画が写っている。
十五年以上も前の物で、色こそあせてきてはいるものの、そこに写る幸せに満ちた笑顔らは、今でも色鮮やかに見える。
写っているのは、三十代後半の俺と、三十代前半の美都子。それと、美都子に抱っこされた三才の俊光。
そして――生まれて間もない小さな菜子と、
その菜子をベッドの上であったかそうに抱いている……
もう一人の家族。
今でもこの写真を見る度に、あたたかな幸せを感じると同時に……胸が押し潰されるぐらいの深い悲しみと切なさも感じてしまう。
「…………」
これを俊光と菜子に見せて、全ての事実を伝えるのは、菜子が高校を卒業した後。
その時まで……あと二年半か。
二人とも……この事実を素直に受け入れてくれたらいいけど、
『もう一人の家族が今はここにいない理由』を、
『菜子』が聞いたらどう取るだろうか。
もしかしたら――自分を責めてしまうかもしれない。
だが……それでも菜子には、ちゃんと受け止めてほしいんだ。
その事実があっての、今なのだから……。
「だから……その時が来たら、うまく想いを伝えられるように見守っててくれな――『春香』……」
昔からあきるほど見てきたその写真に想いを馳せながら、リビングで一人、眺め続けていた。
―終わり―