俊光と菜子のホントの関係
第15章 『兄チョコに隠されていた想いに……』
教室に入り、座っていた前方の席まで歩み寄ると、
「えーと……あ。あったあった」
机の上に、筆箱が蓋を開けっぱなしで置いたままになっていた。シャーペンも消しゴムも無造作に出しっぱなし。
こんなにおっぴろげて置いたりしていたのに……何で気づかなかったんだよ、俺。菜子煩いが重症化している証拠だな。
俺は筆箱の中にシャーペンを入れ、そして消しゴムもしまおうと摘まんだら、指先からポロっと逃げてしまい、床へこぼれ落ちていった。
「あーもうっ、ホントに何やってんだかっ……」
おぼつかない自分にイラつきつつしゃがみ込み、今度こそ消しゴムが逃げないようにしっかと握って拾うと、
「……あ、やっぱり誰もいないね」
「うん」
と話しながら、教室の後方から誰かが入ってきた。
っ、え? 誰もいない? いや、俺がいるけど……。
しゃがみ込んでいた体を少しだけ起こして、机越しに目から上だけ出して覗いてみると、
教室の後ろで、同じ学科の男子の佐藤と女子の高橋が、間の距離を少し空けて向き合っていた。
「佐藤くん……ごめんね。帰ろうとしていたところだったのに」
「ううん、全然。用もないし。で? 高橋、話って……何?」
俺の存在を知らしめるために立ち上がろうとしたけど、二人がそのまま会話を始めてしまった。
佐藤に問いかけられた高橋は、「えっと……」とモゴモゴと口ごもり俯いてモジモジしだす。
何か出づらいな……。とりあえず、タイミングを見計らって立ち上がるか。
俺はそのままの体勢で、二人の様子を窺った。
しかし――この判断は大きな誤りだったと、のちの高橋のセリフによって思い知らされることに。