俊光と菜子のホントの関係
第19章 『二人きりの夜道』
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心細そうにしていた菜子を、カラオケで遊んで気を紛らわしてくれた謝意も込めて、智樹を駅の改札口まで見送り、明里ちゃんを無事に家まで送り届けた。
「おやすみなさーい!」と明里ちゃんに手を振られながら、菜子と帰路に就く。
夜のとばりが下りた住宅街の中を、等間隔に設置された街灯と、家々から漏れている生活の灯りを頼りに、二人で足並み揃えてゆっくりと歩いていく。
夜空の方を見上げれば、美しい円を描いた満月が、金色(こんじき)に輝いている。その月までも、俺と菜子の帰路を照らしてくれているようにも感じ取れた。
「ねぇ、俊光君……」
「……ん?」
月に見惚れかけたところで、おずおずとした声が聞こえたのと、左側のコートの袖をつんと引っ張られたのとで、意識を夜空から地の方に向けた。見ると、白いマフラーを口元までしっかり巻いている菜子が、キレイな満月じゃなくて、俺を見上げている。捨てられて寂しがる子猫みたいに、しゅんとした表情で。
「どうした?」
「ホントに良かったの? カラオケ代……」
「……ははっ。なーんだ、そのことか」
図書館のスタッフルームでのこともあって、二人きりの夜道というシチュエーションに緊張していたのが、菜子の今の一言にウケたらほぐれた。
「だって俊光君、ちょびっとも参加してないのにお金だけ払うって……まるで金づるじゃん」
たまらずぷはっと吹き出し、ますますウケる。
愛らしいだの小学生中学生だの言われる童顔で、『金づる』なんて言葉を使ってくるなよ。ていうことを、自分の中で思うだけじゃなくて、実際に口に出してツッコんだりもした。