俊光と菜子のホントの関係
第19章 『二人きりの夜道』
そんな訊かれ驚かれの愛娘は、ちょっとすまなさそうに首をすくめた。
「んー……それがね、晃君達との合コンは、明里と一緒にドタキャンしちゃったの。
だけどね、もう一つの合コンに誘われたから、そっちに行ったんだぁー」
「えー、何よそれー」
「どっちにしても合コンじゃないかっ」
「えへへー。実はねー……」
菜子はソファーにいる父さんと母さんに歩み寄り、甘えるようにその間にちょこんと座ると、そのまま話し始めた。
……って、おいコラ。ちょっと待て菜子。お前は自分のココアと、俺にもコーヒーをいれてくれるんじゃなかったのかよ。
と実際に言ってやろうとした俺と、ふと目を合わした菜子は――父さんと母さんにわからないように、幸せいっぱいの笑顔を、にぱぁっと華やかに咲かせて見せてきた。それからまた、いつもの無邪気な表情に直すと、親子三人の会話へと戻っていった。
「っ…………」
言ってやろうとしたセリフは、笑顔の花によって、あっという間に喉の奥へと飲み込まれてしまった。その代わり、「やられた」という敗北の一言だけが、口からポロッと溢れ落ちる。
お前なぁ。そんな顔を見せつけてきたら、何にも言えなくなるに決まってるだろう。しかもさりげなく、妹の顔と恋人の顔を使い分けてくるって……。恋人同士にもなってまだ間もないのに、そのズルすぎる技はいつ取得したんだよ。
はぁーあ、しょうがない。今の顔に免じて、妹に甘い兄に徹してやるか。……いや。わざわざ徹しなくても、俺は元々妹に甘いんだったな。
そしてこれからはそれに加えて、彼女に甘い彼氏に徹したりもするんだろうな、俺は。
とことん情けなくなっていく自分に苦笑しつつ、食器棚の中からシンプルなデザインのグレーのコーヒーカップと、菜子が何年か前から愛用し続けているイエローのマグカップを取り出す。その二つを大事に抱えると、俺はキッチンへと向かった。
―次話へ続く―