俊光と菜子のホントの関係
第23章 そして翌日――
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鼻につくハッカ臭が漂う湿布を、顔の左側に大っぴらに貼りつけているせいで、電車の中でも、駅からの通学路でも、大学のキャンパス内でも、不特定多数の視線がやたらと痛かった。
まるで、腫れた左頬と、傷が残る口元を、興味本位で突っつかれているみたいだった。
「……あーあ。想いが通じ合った菜子ちゃんとのセックス、失敗すんじゃねぇよ、天然。勿体ねぇのー」
大講義室でもっとも人気(ひとけ)の少ない端っこの席で、智樹は机に片肘つきながら、自分のことのように残念がっている。
俺と会うなり、その顔は一体何事だと驚かれたから、正直に話した。俺の内部事情を一番よく知っている親友だし、昨日カラオケで菜子の気を紛らわしてくれた恩もあったしで。
けど、
初心者の俺が、正常位でじゃなくて、いきなり上級者向けのような体位で、菜子に挿入しようとしていたこと。……と、
急いで服を着直す時、下半身の部分に装着した避妊具を取る余裕すらなく、やむを得ず上から下着とズボンを履き、その状態のままで母さん(鬼)の刑罰を受けていたこと。この二つだけは、親友にだって絶対に話したくはなかった。
『菜子に焦って挿入しようとしたら、痛がられて叫ばれて蹴られて失敗したんだ』って話しただけでも大バカ笑いしたヤツだからな。その二つを話そうものなら、一生笑いのネタにされる。そのうち行くであろう飲みの場でも、酒の定番のツマミにもなってしまう。いくらなんでも、それだけは真っ平ごめんだ。
しかし……途中までは、どうにもこうにも止められなくて、下半身の部分も破裂しそうなぐらいパンパンだったのに、『いいっだああああああああいっ!!!』と『ドバキィッ!』と『ドシーン』で、ものの見事に萎えたもんなぁ。
ふと、行為をする前に菜子に伝えた、自分のセリフを思い出す。
(菜子……。もし、途中でどうしても怖くなったり嫌になったりしたら……母さんがまた飛んでくるぐらいの大声を出すなり、殴る・蹴るの暴行をするなりして全力で拒否るんだ。そうでもされないと俺、止められそうにないから)
……だよな、菜子。お前は無意識に、俺の言ったことを素直に実行したんだよな。偉かったぞ。