俊光と菜子のホントの関係
第26章 ~俊光と菜子の思い出ショートストーリー~
「ただいまー」
家に帰ってリビングに入ると、ソファーから菜子の後頭部が生えているのが目についた。
また「ふーんだっ」て言ってリビングから出ていくのかと思ったけど、
「お……おかえりなさい……」
俺の方に振り返りはしなかったものの、独り言みたいに返してきた。
菜子にとって気まずい相手であろう俺が後ろから近づいているのに、ソファーで置物のように体育座りをしていて動こうともしない。顔も、ひたすら俯いたままだ。
だけど、菜子にそんな態度をされても、もうカッカしたりムカムカしたりすることはなかった。
お弁当まで作ってくれたんだ。まだ怒ってるとかじゃなくて、照れ臭いんだろうな。
こっちから歩み寄れば、きっと菜子も素直になれるだろ。
「……菜子。これ、ご馳走さま」
「っ、あたっ」
俺はカバンからお弁当箱を取り出して、菜子の頭に乗せるように、コツンとぶつけた。
「お……美味しかっ、た?」
「あぁ。唐揚げときんぴらごぼうとサラダはな」
「それっ、お母さんが作ったヤツ!」
わざと意地悪く言ってやると、菜子はプンスカ怒りながら、俺の方に身を乗り出した。
「ははっ、ウソだよ。不格好な玉子焼きも、ただ焼いただけのウィンナーも旨かったって」
「むうーっ、それ絶対褒めてないでしょ!」
出た出た。菜子の膨れたモチ顔が。
「それと、『ソーリー』ご飯もな」
「あっ……」
「お前なぁ、ソーリーって欧米かよ」
「だって……海苔文字作るのに一番簡単だったんだもん」
やっぱりな。そして、正直に言ったなコイツ。
「たくっ。ホントに謝る気あんのかよ」
「ど、どうせっ……」
俺は許してもらおうと、またモチ化する菜子の、頭をポンポンとした。菜子は、恥ずかしそうにモジモジとしだし、膨らましている頬を少し赤らめた。
「俺も。昨日はごめんな」
「っ……うん……」
しょうがないヤツだけど、可愛い妹だよな。
「……あ、悪い。『ごめんな』じゃなくて、『ソーリー』って謝らなきゃだったな」
「なっ……笑いながら言うって、バカにしすぎーっ! 俊光君こそ、謝る気ゼロでしょ!」
「ははは、ごめんって」
ポカスカ叩いてくるけど全然痛くない。くすぐったくて、余計に笑えてしまった。
―終わり―