俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「ごめんなさいねー、ずっとお邪魔しちゃってて。でも、良くしてくれて、どうもありがとう」
母親でもある店員さんから、お礼を言われた。
「いえ。邪魔だなんてことはなかったですし、俺達も話していて楽しかったです」
「ふふっ。だけどこの子達が、初めてのお客さんにここまで懐くなんて。お兄さんとお姉さんのこと、よっぽど気に入ったのね」
店員さんの母性溢れるスマイルと優しいセリフに、五人姉妹も笑顔でうんうんと頷く。
「……えへへ。なんかテレテレしちゃうね」
「だな」
菜子と顔を見合わせて、照れ笑いを交わした。
「なんだか君達とは、縁というものを感じるよ」
調理で忙しいはずなのに、店長さんもわざわざ見送りに来てくれたんだ。
「とても他人とは思えなかったし」
とか言って、また俺を見てくるパターン。
「それは……元カノに似ているからですか?」
俺が嫌々ながらに訊いたら、店長さんはまた愉快そうに笑いだす。
「それもなんだけど……なんだろう? 他人と思えない理由が、また別にありそうな気もするんだよなぁー」
「え、それって……?」
「…………まっ、気のせいか! はははっ」
「は……はぁ? もう、何なんですか……」
ガクッと拍子抜けした。
あの店長さんが、急に真っ直ぐに俺を見据えて、含みのある言い方をしたから、何か特別なことでも言われるんじゃないかと思っていたら……何だ。変に緊張して損した。
たくっ。テキトーをぶっこくにも程があるぞ。
「あ、そうそう。またいつか来てくれるのなら……はい、これどうぞ。オレの名刺。店の住所と電話番号も書いてあるから」
「あ……どうも、ありがとうございます」
名刺なんて初めてだ。ちょっと恐縮してしまう。
ビジネスマナーはまだわからないから、とりあえず自己流で、丁寧にお辞儀をしながら両手で受け取ってみた。
「わぁー。名刺をもらうって、仕事している時のお父さんみたい!」
羨望の眼差しで覗き込む菜子と一緒に、俺も名刺に目を落とす。
シンプルなデザインの名刺には、店の外壁につけられていたステンレス文字の書体と同じ、黒色の丸文字の店名。と、一番下に、ここの住所と電話番号。
そして真ん中には、
店長さんの名前が、ローマ字と共に表記されている。