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俊光と菜子のホントの関係

第28章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(後編)』


 *


 ――数日前。


 菜子が鼻歌を歌いながらリビングから出ていったあと、意を決してお願い事をしたら、


「……え? 今度の日帰り旅行を、一泊旅行にしたい?」


 父さんと母さんは、口を揃えてオウム返し。

 俺は、テーブルの下に隠している手の震えを懸命に抑えながら、ぎこちなく頷いた。

 つ……ついに言ってしまった。もうあとには引けない。このまま貫き通すしかないぞ。

 緊張で詰まりかけた息を、小さく深呼吸をして楽にしてから、また口を開いた。


「俺と菜子だけで、遠出するなんて初めてだし、今までしようとも思ったことなかったからさ……。どうせなら……一泊ぐらいしてみるのも、いいかなって。
 最近俺達、それぞれで過ごすことが増えてきて、ちょっと離れがちだったから、余計にそうしたくなって……。
 だからその……つまり……二人だけの時間を、ここぞとばかりに、思いっきり楽しく過ごしたいんだ……けど……」


 ガチガチした拙い話でも、二人はうんうんと頷き、黙って耳を傾けてくれている……ように見えてはいるけれど、内心はどうだろうか?

 だいたいのことには理解を示してくれる父さんと母さんでも、『年頃の兄妹が二人きりで泊まりって……どうなの?』って懸念しているかもしれない。

 特に俺達は……本当の兄妹のようでも、実際は血が繋がっていないんだ。何かと理由を付けて反対してくる可能性はあるよな。だとしたら、その時はその時だ。兄妹の事実を抱えている親としては、万が一のことを考えて心配をするのは当然なんだから。

 もし反対されたら、何も言い返さずに素直に受け入れて、当初の予定どおり、日帰りにしよう。

 それだけでも、菜子は十分嬉しそうにしてくれているんだ。俺もそれで十分だと思って、二人で気持ちよく出掛けよう。


「二人とも……どうかな?」


 どんな答えでも受け入れる心の準備をしてから、顔色を伺って確認をすると、


「どうもなにも、いいに決まってるじゃないか」

「……へぇ?」


 あっけなく許可を与える父さんに、一瞬で緊張感が抜け、つい菜子みたいな反応になってしまった。


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