テキストサイズ

愛が、いっしょに

第1章 1

   愛が、いっしょに

          双葉 如人

         1

 わたしが、徹と知り合ったのは、国語科の研修会だった。
 徹は、学校の教師ではないが、塾を経営しているので、国語科の研修会に参加していた。
 徹は、国語科は、言葉の指導だけでは駄目だ、と言うのだ。
考えるとき、言葉で考えるんだから、言葉とともに、考える力を育てる指導をしなければならないと言う。
 とても、ユニークな発想だと思った。
 ただ、徹が、私塾の経営者だから言える、ということもあると思う。
 学校の教師は、文科省の指導要領にしばられて、独自の指導はできない。
 そう言うと、
 「なんだ。
  官僚みたいな発想ですね。
  その、指導要領を変えていくという、
  気概はないんですか」
 痛いところをついてきた。
 そうなのだ。
 それをしなければ、ほんとの教育改革ではない。
 帰りの電車で、一緒になった。
 「村本さんは、
  どこまでですか?」
 「堺です」
 「じゃあ、
  大阪に着くまで、話しましょう」
 「いいですね」
 わたしが、全国規模の研修会はもちろん、県単位の研修会も、日程の許すかぎり参加していて、夏休みは、研修でおわると言ったら、
 「いい先生なんですね」
 「いい先生じゃないから、
  勉強するんです」
 「あはは」
 「おかしく、ありません」
 「そうすると、
  まだ、独身ですか?」
 「セクハラですよ」
 「そっか、
  失礼」
「いいです。
  西沢さんが、
  悪意で言ったんじゃないことは、
  わかりますから」
 「ありがとう」
 わたしは、結婚というか、人を好きになるというか、そもそもなにかを好きになるというのが、わからないと言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ