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愛のことば

第1章 愛のことば

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 直さんは、自分の名前も言い、その後、わたしを、デートに誘った。
 天麩羅の美味しい店があるから、つきあってくださいと。
 そして、
 「私は、
  あなたに、
  下心をもって、
  誘っています。
  それで、いいなら、
  ご連絡ください」
 と言って、わたしに、名刺を渡すと、出口の方へ歩いていった。
 わたしは、キョトンとしていた。
 下心があると言う人に、初めて会ったわ。
 男性は、それを隠して、女性を誘うのだと思う。
 ほんとに、なんでも言う人だわ。
 でも、なんだか爽やかだわ。
 言うか言わないかだけで、デートに誘うのは、下心があるよね。
 と、職場に戻りながら、胸の内でそんなことを思っていた。
 直さんと、デートした。
 天麩羅は、ほんとに美味しかった。
 その後も、何回か、デートした。
 でも、直さんは、下心をあからさまにすることはなかった。
 とても紳士的に、わたしとの食事を楽しみ、そして、ではまたね、と次の約束をすると、帰っていく。
 とうとう、わたしから、聞いた。
 「あの、
  時枝さん、
  下心があると言ったのは、
  冗談だったの?」
 「そうだね、
  半分、冗談かな」
 「半分?」
 「綺麗な人を誘うのに、
  下心がない男っていないよ。
  でも、
  瞳ちゃんと、
  食事だけでもできれば、
  それだけになってもいいなと、
  思ってもいたよ」
 わたしは、何と言っていいかわからなくて、
 「そう」
 としか、言えなかった。

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