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愛は、メロディにのって

第1章 愛は、メロディにのって

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 望さんは、あまり熱心な生徒さんでは、ありませんでした。
 仕事柄、忙しいと言っていたので、しかたないことです。
 でも、音楽が好きだということは、わかりました。
 それも、チャイコフスキーやワルツなど、メロディのきれいな曲が好きだと言いました。
 わたしと同じでした。
 わたしと望さんは、その他の曲も音楽以外でも、好きなものが一緒というのが多かったのです。
 そんなある水曜日、小学三年生のなつみちゃんが怪我をしました。
 よそ見をしていてピアノの蓋を閉じたので、指を挟んでしまったのです。
 ウワーンと泣き声がしたので見ると、なつみちゃんの左手から血が床に垂れています。
 救急車と誰かが叫びましたが、
 「いや、
  この先の服部外科がいい。
  救急車は連絡したりして時間がかかるし、
  総合病院に行く」
 望さんが、なつみちゃんに、
 「おじさんが、連れていってあげるね」
 そして、わたしに、ほかの子どもたちは帰して、なつみちゃんのお母さんに連絡をしてと言いました。
 「先生。
  慌てないで、
  鍵をかけ忘れないで、
  後で来てください」
 そう言いながら、泣きじゃくっているなつみちゃんに、タオルで押さえていてねと言い、抱きかかえて服部外科に速足で向かいました。
 痛いよね。そうか痛いよね。大丈夫。病院ですぐみてもらおうね。と優しく言いながら。

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