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土壇場の恋・あなたならどうする?

第3章 先の見えない暗闇で


 一陣の風が吹き抜けたと同時に
 冷たい夜風が頬を撫でてゆく ――。


 (父さん母さん……俺もそっちにいっていい?
  いいよね?)

 もう……疲れちゃったんだ。


 綱吉はフェンスを乗り越えてギリギリの位置に立ち、
 そっと瞼を閉じると深呼吸して臆する事なく
 一歩前へ……。
 


「―― 若、この後は元町で宜しいですね?」

「あ、あぁ ―― イヤ、やっぱり止めとくわ。
 真っ直ぐ自宅へやってくれ」

「はぁ? 宜しいんですか? 浜乃家に寄らなくても」

「おぉ、かまへんかまへん」


 等と、隣に座った40絡みの男と
 言葉を交わしているところへ携帯の着信。


『――おぉ、聖子ママ、今ちょうど八木と2人
 ママの噂してたところや……あー? そんなんやない
 ――おぉ、もちろん邪魔させてもらうで。あと、
 20分もありゃ着くと思うさかい……あぁ、
 ほな後で――』


 渋顔でその通話を終えれば、
 今の会話の内容から予定の変更の変更を
 悟った隣の男は苦笑を浮かべこう言った。


「ま、これも義理ごとのひとつだと考えて、
 諦めて下さい」



 黒塗りの後部座席側の窓にスモークを貼った
 セルシオが夜の公道を快走する。

 助手席には屈強なボディーガードが、
 そして後部座席にも50絡みの
 これまた強面の男が乗っている。

 その傍らに長い足を優雅に組んで座っているのは、
 東日本一帯を統べる竜二組5代目候補・手嶌 竜二
 である。
 
 
 竜二は、高校時代から手嶌組筆頭二次団体
 ”煌竜会”へ行儀見習に出されているが、
 2年前2人の異母兄が相次いで凶弾に倒れる
 といった非常事態から、煌竜会の若頭となった。

 185センチを超える身長に、
 一見細身でありながら鋼のように
 鍛え抜かれた肉体はそれだけで十分目を引く。

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