土壇場の恋・あなたならどうする?
第3章 先の見えない暗闇で
再びため息を吐いた時 ――、
ドスン! という衝撃と共に車が急停止した。
ぼんやり考え事をしていたせいで思わず
前のめりになったが、何とか堪えた。
いつもは慎重過ぎるくらい慎重で、
ドライビングテクニックなら右に出る者はいない
若衆・浜尾 利守にしては珍しいと思い、
竜二は端正な表情に微かなシワを寄せつつ問いただす。
「どないした? 何があった」
浜尾 ”はっ”として我に返り、
「か、確認して参ります」
と、車外に降り立ち、驚愕で目を見開いた。
「マオっ」
「……」
ある一点を凝視したまま車内からの声かけにも
応じない浜尾を不審に思って、降り立った竜二と
八木も驚きのあまり言葉を失った。
先程の ”ドスン”という強い衝撃音は
ボンネットに落ちた物体のせいらしい。
その物体は車が急停止した反動で飛ばされたような
状態になり、車から数メートル先の路上に倒れ、
ピクリとも動かない。
問題はその物体が人間であるという事だ。
車内の誰もが固唾を呑んでその物体を凝視していたが
いち早く我に返った八木が確認を急ぐ。
「……どうや?」
「息はあるようですし、ぱっと見たところ
目立った外傷も見当たりません」
竜二は沿道にあるビル群を見渡す。
「高層階か屋上から落ちたか……落とされたか……」
次に、うつ伏せ状態のその人物をそうっと
仰向けにさせる。
男と呼ぶにはまだ幼さの残る中性的な顔立ち。
「どちらにせよ、このままにゃしておけないな」
と、その少年を抱きかかえた。
「社長 ――っ」
「自宅に戻る」
少年を抱えたまま車内へ戻った。