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秘密のティナ

第1章 ひとりきり

凛とした夜風にあたり空を仰いだ。煌々と光る三日月ときらめく星たちが、今までとは違う世界に感じられた。

兄に連れ出され夫のDVとモラハラから逃げ出した。実家の両親も義姉も優しく、ゆっくりしたらいいよ、といたわってくれた。けれど、実家での生活は妙に落ち着かず、自分の居場所とは感じられなかった。

住むところと働くところ…

「派遣で工場勤め」サービス業位しか経験のない瑠衣には不安でしかなかったが、むしろ今は人に接しないでいられることの方が安心していられた。

ひとりきり…

誰も知る人がいない土地で、ワンルームでのひとり暮らし。ずっと当たり前のように夫に従い従わされてきた。夫は瑠衣が自分の時間を持とうとすることさえ許さなかった。

今、初めて夜空の月の美しさに気づいたかのような、新しい世界がそこにはあった。
瑠衣はただ静かに穏やかに生きていこうと思った。

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