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秘密のティナ

第1章 ひとりきり

慣れない工場の仕事ではあったけれど、ただ黙々と過ぎていく時間は、今の瑠衣には心地よかった。誰も自分のことを知らない。傷ついた自分を慰める人もいない。それは、むしろ思い出したくない過去を聞かれるよりも楽だった。
一通り仕事も覚え、ちょっとしたおしゃべりをする顔見知りもできた。
あとは、兄や娘に借りたお金を返していかないと。それはそれで、働く励みでもあった。

勤め初めて3ケ月が過ぎるころ、工場の生産縮小が決まった。残業が減り、休日出勤が無くなった。瑠衣は、空いた時間に何か働かないと、そんな事を考えた。

時間が短くてお金になる仕事…

結婚前に少しだけ夜の仕事をしたことがあった。もう少しだけ、働かないと…

瑠衣は、家から20分ほどのクラブで週末だけの仕事をみつけた。普段はしない化粧をして、長い髪のウィッグをかぶり、別人になったつもりでお店にでた。

照明のやや落ちたきらびやかな店内で、瑠衣は自分の居場所も分からず、ただうつむいて時間の過ぎるのを待っていた。

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