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Fake it

第5章 Red heart

【翔side】

最初は、経験がある、と言ったあの人のリードで、お互いに 握 り あって、吐 き 出す ことで満足してた。

自分でするのとは違う、もどかしく、じれったい刺激に、俺は夢中になった。

向かい合って。

横並びで。

背中から 抱 い て。

抱 か れ て。

口 づ け を 交わしながら。

慣れてくるにしたがって、最中にあの人の体温が上がっていく様や、達 す る 時 の表情がどんどん愛しくなってきて。

日々、艶を増していくあの人の芝居を見ながら、俺はあの人の悩ましい姿を思い浮かべてしまう自分を持て余す程だった。

凛とした王者の風格で、他を圧倒するオーラを放つ舞台上の貴方。

反対に、ぼんやり自分の世界を漂ってる楽屋の貴方。

仲間にからかわれて、恥ずかしそうに俯く姿や、酔った時のふにゃふにゃした笑顔。

そして二人で触れ合ってる時の、悩ましい、切ない 声 を 出す貴方。

そのギャップに惹かれる気持ちを止められなくて。

智君は今まで一体誰とあんなことをしてきたんだろう、って考えたり。

もう他の奴とは絶対にやらせない、と思ったり。

この人の全部が欲しい。

そう思うようになった。

幾つかの夜を越えるうちに、憧れだった人は、もっと特別な唯一人の人に変わった。





公演に差し支えるから、って智君が言って、それには俺も賛成だったから、俺達が初めて身体を 繋 げ た のは千秋楽が終わってからだ。

ずっと二人で過ごしてきたのが急に引き離されたみたいに感じて。
なかなか日常に戻れず、楽屋でもロケでもただあの人を目で追ってた。

何もなかったみたいに平然としてる智君に焦れて。
このまま自分が動かなかったら、きっと終わってしまうって。

智君にとって、ちょっと遊んだだけの仕事仲間、っていう、その他大勢のフォルダに入れられてしまうのが怖くて、どうやって誘えばいいのか、毎日そればかり考えてた。

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