オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第3章 私立・壬生四条高校
「じゃ、また明日学校で」と、手を振って別れる。
いつもなら、そうなるハズだった。
でも、今日は違った。
歩を進めようとした絢音を裕が引き寄せ、
抱きしめたのだ。
突然の事で絢音はとっさに腕を思い切り突っ張らして
裕と体をなるべく離した。
「……ごめん、しばらくこうしててくれ」
「でも、誰か来ちゃうよ」
「それでもいい」
「……どうしたの? 何か、変だよ、裕」
「……」
裕の表情は、言いたい何かがあっても言い出せない
といった感じで、辛そうに歪む。
「……ゆたか?」
そんな辛さは語らずとも、肌の触れ合いや
ちょっとした仕草からも十分感じ取れるもので。
ましてや、兄の隆にカテキョをしてもらう以前から
家族ぐるみの付き合いをしてきたから、
裕が重大な何かを胸中に沈めかけていると
分かった。
「……話して? 私は何を聞いても驚かない」
「……本当に?」
「うん」
「……実は、俺、ゲイ、なんだ」
「えっ ―― (絶句)」
その絢音の表情を見て、裕は堪らず吹き出した。