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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第29章 心が悲鳴をあげても


 竜二はその頃、会社の部署内新年会に
 出席していた。

 竜二の職場復帰と同時期、
 グループの代表取締役社長に就任した兄・広嗣も
 途中参加し、一瞬場のムードは緊張したが、
  

「―― よっしゃ、今日は無礼講だ。大石くんも
 安倍くんも、遠慮はいらん。ガンガン飲みなさい」
 
 
 意外と砕けた様子の広嗣に再び盛り上がる。
 
 
「社長も一杯どうぞ」

「あぁ、じゃ、頂こうかな」


 若手社員に囲まれご満悦の広嗣を横目に
 ハイボールをチビチビ舐めていると、
 竜二のポケットの中のスマホが震えた。  


 ”ん? 寛治か。あいつがメール寄越すなんて
  珍しいな”
  
  
 仲間同士の主な連絡手段はLINEかフリーメールだ。
   
 プロバイダで契約してるプライベートアドレスを
 知ってる人間はごく ごく限られている。
 
 
 ”リュウの新しい彼女、すっげー酔っ払ってて、
  ふらふら歩いてたけど大丈夫か?”
  
 (新しい彼女、って何だよ……でも、あやが
  酔っ払って?)
  

「あや……」


 スマホを握りしめ、立ち上がる。
 異変に気づいた部下・安倍が、心配そうに竜二を
 見つめた。


「部長どうかしたんですか?」

「―― いやな予感がする」


 申し訳ないが失礼する、と皆に頭を下げ、
 竜二は退席させてもらうことにした。

 店を飛び出し、全速力で階段を駆け下りる。

 通りに出てタクシーを呼びとめたところで、
 安倍が追いついてきた。


「ボクも行きますっ」


 強引に乗りこんで来た安倍を伴い、
 港南寮へと向かう。

 管理された学生会館なら”万が一”って事は
 ないだろうが。
 
 こんな時、頼りにしてる寮監の日向は今日
 医局の関係で大学病院の宿直勤務に就いてる。
 

「もうちょっと急いで下さい」


 妙な胸騒ぎは一向に収まらない。

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