オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第29章 心が悲鳴をあげても
門限後の玄関はオートロック式だが
今夜のような一刻を争う時はそんな
システムもまどろっこしい。
偶然帰宅したもう1人の管理人に続いて
オートロックを通過。
部屋ではインターフォンを押しても扉を叩いても、
何の反応もなかった。
同室のルームメイトも留守のようだ。
さっきの管理人を1階から半ば引きずって来て、
鍵を開けてもらう。
「あやっ」
勢いよく室内に駆け込むと、床に散らばった
薬の上に倒れ込む絢音の姿があった。
「おい、絢、しっかりしろ、絢音っ!」
抱きおこし、息をしているかどうか確認する。
大丈夫。まだちゃんと呼気が感じられる。
「ぼ、ぼく、救急車呼びますっ」
救急車が来るまでのあいだ、竜二は祈るような
気持ちで、絢音の身体を抱きしめ続けた。
(何が大丈夫だ……全然、大丈夫じゃねぇじゃん!
あや、頼む、俺を1人ぼっちにするな……)