オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第29章 心が悲鳴をあげても
次に目を覚ました時、そこは相変わらずの
病室なのは分かったが、
最初に収容された2人部屋ではなくて、
ミニキッチンとユニットバス付きの特別室に
アップグレードされていた。
そして今、その室内には美味しそうな匂いに
満たされている。
「おっ。目ぇ覚ましたな?
お前の好きなクリームシチュー作った。
食えそうならスープだけでも、少し食わねぇか?」
一体何時から作っていたのだろう?
ミニキッチンの電気コンロの上で小さな鍋が
湯気をたてている。
「なんで、うちの好物……」
「え? あぁ。**亭の小母さんがおせーてくれた。
定食がクラムチャウダーとか
クリームシチューの時、
お前ってばホントしあわせそうな顔してるって」
今まで、出来る限り感情を押し殺して暮らしてきた
つもりなのに……食事時は気が緩んでしまい易い
みたい。
「もうあの店には行かない!」
知らないうちにヘラヘラしてしまっていたなんて、
なんだか無性に気恥ずかしい。
「何言ってんだ。あの店に行かなくなったら、
お前あっという間に欠食児童だぞ」
「大きなお世話です」
「いいから、ほら。起き上がれるようなら、
こっちに来い。
あ、それともベッドの上で、『あーん』ってして
あげよーか?」
「そんな恥ずい事、死んでも願い下げ!」