オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第5章 交錯するそれぞれの思い
橘と絢音が絢音の自室へ入って行った後”バタン”と
ドアが閉まった。
すぐさまそのドアの方へ行く初音と祥子。
2人は心配気に絢音の自室内の様子を探る。
と、”パチン!” 何かを平手で叩いたような
乾いた音がその室内から――。
間もなくドアが開いて、絢音は橘を押し出し
再びドアを乱暴に閉めた。
「―― 千尋さん?」
橘、無言で客間へ。
祥子、平手で頬を叩くジェスチャー。
初音、深々とため息。
「―― お休み、母さん」
「おやすみ」
***** ***** *****
がっくり肩の力を落とした橘は
ぼんやりベッドの端に腰掛けている。
初音が戸口に立った。
「ノック、ノック ――」
橘、初音を見る。
「お邪魔しても?」
橘、自分の隣を目顔で示す。
初音、橘の隣へ座る。
橘、自分の手をじっと見つめ。
「―― 叩いちまった」
初音、その橘の手を優しくふんわり包むよう
握って。
「ほんっとお義父さんにそっくり。カッとすると
先に手が出ちゃうタイプよね。困った人――」
「多少は物分かりのいい親のつもりでいたがダメだな、
反省のカケラもない絢音についカッとしちまって……」
「あやねとはしばらく冷却期間おいた方がいいね」
「……やっぱ俺の考え方は古いのかな?」
との橘の言葉を受け初音は「う~ん――」と、
少し考え。
「ほんのちょっとだけね。
でも、私がもし1人だったら
あなたと同じようにあやねの事ぶってたと思う」
「そっか……時には憎まれ役も必要だってか」
にっこり微笑み
橘の胸元へ顔をすり寄せてきた初音を、
橘は黙って優しく抱きしめた。