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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第6章 体調不良、それは ――

                      
『うわっ』
『きゃっ』


 男と女の小さな叫び声が聞こえた。
  

 そこで、絢音が目にしたのは ――、
  
 裕と今の今まで親友だと思っていた和美が
 ベッドの上で一糸まとわぬ恰好で抱き合った姿
 だった。
  
 2人は突然の闖入者に驚いたよう動きを止め、
 じっとドアの前で佇む絢音を凝視したしている。
  
 始めこそ2人は顔色を変えたが、
 今はごく普通な感じだ。


「ごめんゆうくん。玄関の鍵かけ忘れちゃったみたい」

「ったく、しょーがねぇなぁ和美は……」
 

 そんな態度がなお一層、絢音を戸惑わせる。
 
 
「こ、これ、どうゆう事なのかな……」


 和美はうって変わって絢音を蔑んだ視線で見つめ、
 
 
「どうゆう事って、一目瞭然じゃない?
 でもちょうど良かったわ。ゆうくんの携番とメアドの
 メモリー早いうちに消去しておいてね。用もないのに
 コールとかメールされるのチョー迷惑」
 
「ゆ、ゆたか……?」

「あ、分かってるとは思うけど、大学で顔見ても
 話しかけてくんなよ。ここに置いてあるお前の私物も
 処分すっから」 

「で、でも、私のお腹にはあなたとの赤ちゃんが……」

「はぁっ?? 誰とでも寝る尻軽の癖して良く言うぜ」

「!! ひ、ひどい……」

「尻軽女救済の為にバイトしてたんじゃねぇし、
 だいたいお腹の子がオレの子供だって証拠は
 何処にあるんだよ」
 
  
 もう絢音の頭の中は真っ白だ。

 状況的に見て、非は浮気をした裕と友の彼氏を
 寝取った和美にあるハズなのに。
   
 問い詰める言葉も、罵る言葉も出てこない。
  
 なんで、和美がそこにいるん?
  
 自分と裕が、何度も肌を重ねたそのベッドに!
  
 そして、自分はどうしてそれをここまで醒めた目で
 客観的に見ていられるんやろ……。
  
 まるで ―― 自分の方が邪魔者みたいや。     


 気が付くと、絢音は踵を返し逃げるように
 その場から駆け出していた。 

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