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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第8章 風雲、急を告げる


 手術室の前のベンチに力なく座る
 あつし・理玖・まりえの3人。
 
 誰の手もシャツも、
 真っ赤な鮮血がべっとりとついている。

 初音がナースセンターで借りてきたタオルを濡らし、
 順に3人の手についた血を拭っているのにも、
 3人は全く反応しない。


 どうにか血の痕跡を拭き取り、上着を脱がせた時、
 祥子が駆けつけてきた。

 己の両手に顔を埋めて、3人共肩を震わせる。

 泣いているのか……と、初音も祥子も
 思ったのだが、
 3人の声に涙の気配はなかった。

 そこにあるのはただ深い悔恨。 


「……まさか、こんな事になるとは思ってもなかった
 から……本当にごめんなさい……」
 
「あやね先輩に、もしもの事があったら
 どうしよう……」 
 
「縁起でもねぇ事言うなよ。あやねは大丈夫……
 智之先生が診てくれてるんだから。大丈夫だ……」
 
 
 そのとき廊下の向こうから
 カツ カツ カツ ―― 靴音が聞こえてきた。

 
「祥子さん。初音」


 張り詰めた呼び声に、
 一同はハっとしてそちらを振り返る。
 
 
「「千尋さん」」 

「絢音の容態は?」


 その問に答えられる者はまだいない。

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