オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第8章 風雲、急を告げる
そして数時間後――、
ようやく ”手術中”のライトが消えた。
大きな酸素マスクと
何本ものチューブに繋がれた絢音が、
手術室から運び出されてくる。
「あやねね……」
「あやねっ!」
続いて出て来た智之がマスクをはずしながら
告げる。
「手術は成功しました。後は患者さんの体力次第です。
一時は失血性のショック症状を起こし大変危険な
状態になりましたが、幸い処置が早かったお陰で
大事には至りませんでした。あとはさらに輸血を
続け、意識が戻るのを待つしかありません」
「ありがとうございました」
祥子が深く頭を下げた。
「患者さんは状態が落ち着くまでは集中治療室に
入ります。では、私はこれで」
智之やスタッフ達が立ち去ると、
一同は誰からともなくバラバラと
集中治療室へ移動を始める。
***** ***** *****
窓辺の分厚い遮光カーテンに外光を遮られている
治療室内は時間の経過を忘れさせる。
時計を見ると、もう明け方と言える頃だった。
緊急事態だとはいっても、
とりあえず無事が確認出来た今。
勉強を滞らせる訳にはいかない。
高校生3人はガラス越しに絢音の寝顔を見つめ、
彼女の傍らに寄り添っている母親に後は任せて。
学校へ登校し普段通りの日常講義をこなして、
夕方、コンビニで入院生活に必要な物や滋養のつく
食べ物を買って、日向医院へ戻った。