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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第8章 風雲、急を告げる


 だんだん麻酔が切れてきた。

 少しずつ意識もはっきりしてきて、
 私は何処かの病院のベッドに寝かされている事が
 分かった。

 恐らくあつしから連絡を受けたのだろう。

 ベッド脇にはお母さんが座り、
 私の手を握ってくれていた。


 (って事は、ココ、日向医院?)


 あの闇医者があまりに苦しむ私に見かねて
 途中で放り出してしまった処置は、
 智之先生が滞りなく終わらせてくれたようだ。


 私のお腹の中に赤ちゃんはもう、いない……。

 こんな事になる前は、
 ”この子さえいなければ ――”って、
 何度も 何度も思ったのに。
 
 今になって自分がどんなに軽率で愚かだったか
 身に沁みて分かった。
 

 私が殺したも同然……。

 お母さんに握られていない方の手で触れたお腹は、
 当然ペコンとへっこんでいて涙がどっと溢れ出た。
 赤ちゃんを失ったという現実が胸を襲う。

 開いていた子宮口が締まりだした為、
 お腹が痛くてたまらない。

 だけど、そんなお腹の痛みより、
 心の痛みの方が何倍も大きいし辛い……。

 ちゃんと産んであげられなかった私の赤ちゃん、
 本当にごめんなさい。

 私は赤ちゃんを想って泣いた。

 お腹の痛みに耐えながら、
 何度も何度も赤ちゃんに謝った。

 そんな私を見て、お母さんも耐えられない様子で
 目頭を押さえている。
 お母さんは握った私の手を、
 何度も優しく撫でてくれた。

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