
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第9章 急転直下
賑やかな笑い声が漏れる更衣室の扉の前に立って、
ノックしようと手を挙げたその時だった。
『―― 私、さっき事務棟で和泉見たんだ~」
『って、和泉絢音?』
『ホラ、A組のヤリマンサセ子の事でしょ~』
思わぬ話しの展開と同級生達の冷たい口調に
ドアの前で固まってしまった。
『そ~言えばアキと菊ちゃんって、あの子と
仲良かったよね』
『やめてよ~。中学時代からの腐れ縁なだけよ』
どくん。
胸がひとつ大きく鼓動して、
体の末端が凍あやねいていく様な感覚に陥った。
『そうそう。あの子のお母さんって覇王プロに勤めてる
から、**のライブにもサイン会にも優先で入らせて
貰えてたし、スター予備軍っぽいイケメンも紹介して
貰えてラッキーってやつ』
『けど、あの子が長期欠席してたのって、子供堕ろした
からだって、アレ、ホントかな』
『ん、ほんとらしいよ』
『で、家族とも折り合いが悪くなって、東京の親戚の
家に預けられる事になったんだって』
『何それ、超ウケるぅ~』
他の子達が同調するようにケラケラと笑う声が
聞こえてきた。
握っていたドアノブを離し、
私は背を向けて歩き始めた
