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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第14章 ずっと就職しないつもりじゃないけれど


 喫煙所のベンチに座り……暮れなずむ街の情景を
 眺めていた。


「―― よ。絢音ちゃん」


 この声……

 振り返ると、各務先生が立っていた。


「ここに居たんだな」


 各務先生が笑う。


「……何か?」


 今は誰とも話したくないのに……


「キミ、珠姫んとこでバイトしてたんだな」

「見つかっちゃいましたか」

「ん、見付けちゃいました」

「……」
 
「ところで……何かあった?」


 私の顔を見て、各務先生が聞いてきた。


「え?」

「この前にも増して無愛想だから」


 私を見て、少し笑う。

 ―― その顔……やっぱりムカつく。


「……すみません」


 目を逸らして、ぼんやり街の方を見ている私の隣に
 各務先生が座った。

 が、私は何の反応も示さず、振り返りもせず
 ……ただ、街を見ていた。

 私も彼も何も話さない。

 沈黙は好きじゃないけど、今日は違う。
 誰とも話したくはなかった。

 各務先生もそんな私の雰囲気を感じているのか、
 黙ったまま座っている。

 暫くすると、トンっと背中に振動が伝わる。

 見ると各務先生が私に寄りかかって眠っていた。

 
 そういや、今頃高校は入試問題の制作や進級試験の
 採点で、猫の手も借りたい位忙しいはず……。

 今さら起こすのも可哀想だと少しの仏心を出して、
 彼が背中にもたれているのを起こさずに携帯で
 求人情報のサイトを開く。

 就活はしなくても、フルタイムアルバイトくらいは
 探さなきゃね……

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