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夜の影

第20章 光

【智side】

「カズ、ちょっと行ってくる
松兄と待っててな」

俺が言ったら、カズは、うん、って頷いた。

退院してから、俺と長時間離れたことがないから、ちょっと心配だけど。

怯えてる様子はない。


考えてみれば、この店が出来たことは、俺達にとっては物凄く有難いことだと気づく。

俺だって、いつまでもブラブラはしてられないし、働くようになれば、カズが一人になる。

世の中に慣れるには丁度良い場所かもしれなかった。

アイツは、俺たちのこと、そこまで考えてたのかな…。

いつもいつも、整った顔は静かなままで、何考えてるかわかんない奴だったけど。

ショウと出会って、アイツが俺を受け入れなかったのは何故なのか、ちょっとわかって。

救われた気がする。


想いがないから拒んだんじゃない。

そう思っても、いいよな?


「二宮君、いろいろありがとう
サトシに会わせてくれて感謝してる
これからも、よろしくお願いします」


ショウが言って、テレビの前に座ったカズに手を伸ばす。

カズは松兄の背中に隠れてしまった。

怖がってるわけじゃなくて、これは単に人見知りしてるだけだ。


「カズ、握手してやんな?」


松兄がデレデレと嬉しそうな顔をして、肩越しにカズに言う。

カズはふるふると頭を振って、松兄の背中に貼りつく。

松兄がますます嬉しそうな顔をした。


「ショウ、カズは恥ずかしい、ってさ」

「そっか
じゃぁ、また今度ね」


気にした様子もなくカズに笑いかけたショウの顔を見て、こいつ、すげぇな、と思った。

誰かに何か聞いたのかもしれないけど。

以前のカズを知ってる奴なら、驚くのが当たり前なのに全然動じてない。

意外と、肝が据わってるのかもな。


そりゃそうか。

あんだけ追い詰められた状態で、自分の 躰 を 売 っ て でも何とかしようとしたんだ。

ただのボンボンに出来ることじゃない。

しかも、元々居た世界に戻ってからも、仕込みで会った俺のことを諦めないで。


「お前、勇気あるなぁ」

「ん~?何がぁ?」


並んで歩きながら言ったら、のんきな返事が返ってきた。









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