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夜の影

第20章 光

【智side】


「俺のこと、諦めようと思わなかったの?」


言いながら店のドアを開ける。

上部に付いたベルが牧場ちっくな音を立てる。


「お~、眩しい~」

「…あっちぃ」


一歩外に出た俺たちは、店の中との気温差と、日差しの勢いに押されて、立ち止まる。

背後で、閉じたドアがまたカランと音を立てた。


「サトシが言ったんでしょ
大切な人のこと諦めない、
って思え、って」


ショウが目の上に手をかざして、眩しさに目を細めたまま、俺を見た。

きっと俺も、眩しくて、くちゃくちゃの顔になってる。

キャップを取り出して目深にかぶった。


「え、俺、そんなこと言いました?」

「言いました」


ふふっ。

変な奴。


目の上にかざした手の陰になった顔が、思いっきりスネてる。


「ひでぇなぁ~
俺は貴方が言ったこと、ちゃんと憶えてるのに
サトシは忘れるんだ」

「ははっ、スネんなよ
お前、俺のことそんな大切なんだ?」


可愛いから、ついからかいたくなる。

会話が嬉しい。

途切れないように、言いながら歩く方向を指さして見せた。


「サトシだって俺のこと好きなんでしょ?
俺の絵ぇ見ながらさぁ、
俺のこと思い出してたんだろぉ?
可愛いな~」


ようやく明るさに目が慣れたらしいショウが、額にかざしてた手を下ろして、俺の背中に当てた。

ニヤッ、と笑って、俺を覗き込むようにしながら言う。


「うわ、生意気
お前、喋ると生意気
いや、そう言えば
黙ってても生意気だったわ」


言い返す俺に、ショウは嬉しそうに、楽しそうに笑いかけた。

背中に置かれた手に少し力が入ったから、つられて俺は何となく一歩を踏み出した。

動けなかったドアの前から、光の中へ。

二人で、歩き出す。


並んで。

一緒に。









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