テキストサイズ

夜の影

第22章 【過去編】Beginning

【智side】

引き取って認知するから一緒に住まないか、って話が来てる、って。

日頃のんきなかーちゃんが、その時だけは深刻な顔をして、あっちの家に行けばお金持ちの生活が出来るし、あんたの将来の為になるから、とか言い出して。

ただ、かーちゃんは介護もあるし行けないから、あんた一人になっちゃうけど行く? って泣いたんだ。

はぁ? ってなって。

死んだと思ってたとーちゃんが生きてて金持ちの跡取りとかって、ドラマかと思った。
全然現実味わかないよ。

で、何なの? って話聴いてさ。
したら、そういうことにしちゃったの、だもん。ウチのかーちゃん、ってホントに……。

ほんで、当然その話は断って、まぁ、今に至るんだけどさ。

ウチは親子そろって、あんまり思い詰めるタイプではないんだろうな。なんかさ、考えてもしょうがないことは、もういいや、って。すぐ、そうなっちゃうんだよ。

大体オイラ頭悪いから、中学受験とか絶対嫌だったし。家から通える地元の公立で十分だった。
友達も居るしね。

それに、かーちゃんが未婚でオイラを産んで育ててくれたことが普通じゃない、ってその頃には理解してたから。

実家のじーちゃんとばーちゃんが受け入れて助けてくれたから良かったけど、絶対普通の家よりも大変だったと思う。

だから、訊くのが悪くて。

何も訊かないことが、自分が幸せなんだってアピールになると思ってたんだ。
全然気にしてないよ、ってさ。

実際、片親でもじーちゃんが頑固爺で口煩くしつけするタイプだったし、優しいばーちゃんと、すっとぼけのかーちゃんと。

オイラがのんびり屋でバランス良いって言うか。
俺は自分の家族が好きだった。

そうやって過ごしてるうちに、とうとう詳しく訊かないまま、皆死んじゃったんだよなぁ。

「あの……」

遠慮がちに言う顔が真っ白で。

今更何か言われても、オイラ何にも知らないし、困ったなぁ、と思ったんだけど。

緊張してるのがハッキリわかって何か気の毒になってきた。

指に着いたカラアゲの油を舐めとりながら、何気に足元を見たら、二宮カズナリの膝が震えてて。

ブランドのスニーカーを履いた足首がやけに細いのが、余計に幼く見える。

「そこのハンバーガー屋でいい?」

話ぐらい聞いてやってもいいかな、と思ってオイラは言った。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ