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夜の影

第22章 【過去編】Beginning

【智side】

貰ったカラアゲを一つ口に入れて従業員用の出入口から外に出ると、さっきドリンクの冷蔵庫で目が合った中学生? が居て。
ゆっくりと近づいて来るのを、オイラは行儀悪くモグモグしながら見ていた。

「大野智さんですよね?」

「……そうだけど」

「僕、二宮カズナリと言います」

ごっくん、と飲み込んだ喉が鳴った。
二宮、は父の姓だ。
じゃぁ。

「アナタの弟です」

「…………」

真っ直ぐにオイラを見る顔がやけに強張っていたから、どう返事をしたらいいのかわからなくて。
手に持ったカラアゲをまた一つつまんで口に入れた。

「お願いしたいことがあって来ました。
少し付き合ってもらえませんか」

「…………」

口の中が空になるまでの間、目の前の男の子を見ていた。
オイラは父親似らしいんだけど、コイツとはあんま似てねぇなぁ、と思う。

自分の父親の顔は正直うろ覚えだった。
何しろ写真もないんだし、会ったことも殆どない。

オイラのとーちゃんは金持ちの家の跡取り息子で。
お付き合いしていたかーちゃんは、オイラを身ごもった時にとーちゃんと別れてしまった。
だから生まれた時から、オイラには父親は居ない。

ウチのかーちゃんは少し変わってるところがあって、すっとぼけ、って言うかさ。
明るくて、あんまり真剣に物事を捕らえないタイプの人で。

今思うとひでぇなぁ、って呆れるんだけど、子供の頃はとーちゃんは結婚式の前の日に交通事故で死んだ、って教えられてた。



『子供が理解出来るような上手い言い訳を思いつかなかったのよ。
仕方なく無難に死んだことにしたら、いつ? て訊くし。
結婚式の前の日、って言ったら、なんで? って。
どうせ一生会わないんだろうし、いいかなと思って。
そういうことにしちゃったの』



えへへ、と笑いながら、あっけらかんと言われた時には、物凄く脱力したもんだけど。

6年生の時に中学受験するか? って話が出て。
そんとき初めて父親が死んでないことがわかってさ。

本当のことを聞かされたんだけど、それが結構面倒くさそうな話だったんだよね。


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